こんにちは。あおありです。
この記事ではマイケル・ジャクソンの名曲バラード「Stranger In Moscow」の制作背景、映し出された感情、楽曲のオリジナリティーについてレビューします。
Stranger In Moscowは1995年、マイケルのアルバム「HIStory」に収録されました。
1993年9月、マイケルがワールドツアーで初めてロシアを訪れた時に経験した「孤独」や「憂うつ」といった感情と、雨が降りつづく当時のモスクワの空気を真空パックしたような作品です。
マイケルのヒット曲に多い、アップテンポでキャッチーでパンチが効いた作風とは対照的で、彼の新たな魅力を発見できます。
Stranger In Moscow作曲の背景
マイケルは1993年9月、Dangerousワールドツアーで滞在していたモスクワのホテルでStranger In Moscowのインスピレーションを得ました。
Stranger In Moscowは僕がDangerousツアーでモスクワにいるときに書いた。
それは僕にとって奇妙で、不気味で、孤独な時間だった。
ホテルの外では、連呼したり、叫んでいるファンの顔が海のように広がっていたのに、部屋の中で自分がモスクワに来た「よそ者」のように感じた。
すごく孤独で、自分がこの惑星にたった一人取り残されたようで。
僕はこう歌う「どんな気持ちか。一人きりで、心の中が冷たくて」そして言うんだ「モスクワに来たよそ者みたいな気持ちさ」これはまさに僕が思っていたこと…人々は素晴らしくて、今まで出会ったなかでもすごく素敵だったし、コンサートは大成功だった。でもあの日は、あの日だけはいつもと違う気持ちで、Stranger In Moscowという歌が僕のもとにやってきた。そうやって書かれた曲だよ。
Stranger in Moscow was written when I was in Moscow on the Dangerous tour, and it was just a strange, eerie, lonely time for me. Outside my hotel was just a sea of faces of fans, chanting and screaming, but I was inside my room and I felt like a stranger in Moscow, so all alone, like I was the last person on the planet, and in the song I say, “How does it feel when you’re all alone, you’re cold inside?” I say, “It’s like a stranger in Moscow.” That’s pretty much how I felt…and the people were lovely and they were some of the nicest people I’ve ever met and the concert was very successful, but that day, especially that day I just felt this different feeling and the song Stranger in Moscow just came to me and that’s how that was written.
1993年8月、マイケルがDangerousワールドツアーのアジア公演に取りかかると同時に、彼の人生を永遠に変えるスキャンダルが勃発します。
実情は、入念に計画された少年の父親による作り話。疑惑の根拠は麻酔薬を投与された少年から引き出された証言だけだった。
嘘の情報がひっきりなしにテレビや新聞に飛び交い、多くの人がそれを信じました。
マイケルは警察に追われる立場となった上、ポップスターとして重大なイメージダウンを招いた。
「マイケルが小児性愛者」で「子供たちに性加害を加えた」というイメージが多くの人に植え付けられる。
そんな困難を抱えながら、マイケルはワールドツアーを続けていた。激しい痛みに苦しみ、心身ともに限界で公演をキャンセルする日もあった。
アメリカの自宅が警察に家宅捜査されるなか、タイ、シンガポール、台湾、日本(福岡)の公演を終えて、モスクワに降り立ちます。
冷たい雨が降るモスクワで、たくさんの熱狂的なファンの声を聞きながら、ホテルの中で感じた孤独、そして奇妙な感覚がStranger In Moscowの源泉になりました。
念願のロシア公演は思いもよらぬ展開に
マイケルのロシア訪問には大きな意味がありました。
マイケルが生まれた1958年ごろから、長い間アメリカとロシアは「冷戦」状態で対立が深まる。
「需要と供給」の原則に基づく資本主義社会のなかで成功をおさめ、多額の富と名声を得てキラキラと輝くマイケルの存在自体が「アメリカ側(西側)」の宣伝になり、ソ連から危険視された。
マイケルは資本主義の国アメリカで、たくさんの「需要(人気)」を得た結果、成功し何千〜何万人分の富を1人で所有するまでになった
マイケルは魅力的な憧れの存在
「平等な社会」をかかげるソ連(東側)にとって、マイケルの存在自体がは西側の宣伝になる
国民が民主主義や資本主義を求めるきっかけになるため、危険な存在
スリラーも正規には発売されていなかった。
とても行ける状態ではない。
しかし、ロシアにもたくさんファンがいた。彼らは海賊版のテープやCDをひそかに貸し借りしてマイケルの作品を楽しんでいた。
マイケルもロシアの文化に積極的にリスペクトを示していた。
Dangerousを発表した時期。冷戦の終結、ソ連の解体、経済自由化を経て、緊張が弱まり、旧ソ連の国々を積極的に訪れる。
そして、ロシアのファンにやっと会える直前、突然少年に性的虐待をした容疑をかけられる。
待望のロシア訪問は、想定外の辛い時間になってしまった。
モスクワのホテルでブラッド・バクサーと作曲
雨が降っているモスクワのホテルに閉じこもる。朝、気持ちをメモしたマイケルはブラッドバクサーを部屋に呼ぶ。
Play something
ソニック3のエンディングと同じコード
Take it somewhere
アメリカ帰国後、敏腕スタッフたちの手により完成
Stranger In Moscowに投影された4つの感情
悲しみ
Armageddon of the brain
孤独
How does it feel?
When you alone and you’re cold inside
非現実感
キャリアの絶頂だった。一国の王様のような地位を築いていた。
Swift and sudden fall from grace
ソ連崩壊後でまだ混乱期にいるロシア人たちの心とリンクしているかもしれない。
憂うつ
Scream, They Don’t Care About Us, Earth Songなどの楽曲で表現されているような、張り裂けるような怒り、絶望、狂気とは一線を画している。
どんよりとまとわりつくグレーな世界。
“Why have you come from the West?
Confess! To steal the great achievements of the people,
the accomplishments of the workers…”
クレムリンの影、スターリンの墓、KGBにつきまとわれている。
不安、不気味な雰囲気を演出している。
歓迎されながらも、異邦人であり、敵国から来たという疎外感は消えない。
Stranger In Moscowの歌詞に登場する「マイケルを狙い、つきまとうロシアの組織」は、アメリカ人たちのメタファーと捉えることもできる。
実際にマイケルを追い回していたのは母国アメリカの警察、検察、メディアだった。
嘆き
最後に、ふわふわとループしていたような感情が爆発する。
Like a stranger in Moscow
I’m livin’ lonely
心の模様が視覚化されたミュージックビデオ
Stranger In Moscowの個性3つ
モスクワという特定の舞台
特定の場所を舞台にしたマイケルの曲は少ない。
有名な曲にLiberian Girl(リベリアの少女)があるものの、Stranger In Moscowはもっと具体的で「特定の場所、時間」の情景を描いている。
歌詞にクレムリン、スターリン、KGBといった、かなり攻めた固有名詞が組み込まれている。
ポジティブな歌でないにしろ、ロシアのファンにとってはこれ以上ない大サービスなのではないか?
もしマイケルが東京を舞台にした曲を作って、歌詞に「ニンジャ」「スシ」「カワイイ」など日本にまつわる言葉が入っていたら絶対好きになる。
国同士の対立はあっても、僕は世界中のファンを愛してるよ!というメッセージもあるかもしれない。
ボイスパーカッション
誰にも真似できない。
重厚感、立体感、硬さ
マイケルらしいグルーブが生まれ、バラード曲でありながらダンサブルなサウンドになった。
ヒストリーワールドツアーでは、パーカッションに乗ったロボットダンス。
「美しく繊細なバラード」のイメージと一転、新しい解釈を見つけられる。
「中立な自然」と「パーソナルな胸の内」の融合
人生のどん底にいるマイケルと、敵も味方もしない自然。
暗く重いテーマに、透明感と軽さを与えて絶妙なバランスを生み出している。
雨はネガティブでもあり、ポジティブでもある。
マイケルの憂鬱を深め、コンサートには悪影響。
めぐみの雨。洗い流し、開放する。
まとめ
参考資料
- Joseph Vogel : Man In The Music
- Allard, François; Lecocq, Richard. Michael Jackson: All the Songs: The Story Behind Every Track (English Edition) (pp. 460-463)
- マイケルジャクソン全記録
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