Smooth Criminalを解説:鬼無辻無惨にそっくり?どうやって傾いている?

Smooth Criminalは一度聞いたら忘れられない、ダークでスピード感のある曲です。ミュージックビデオはマイケル史上最高峰の完成度。かっこいい衣装とダンス、あっと驚く「斜めになる」動きもこの曲の魅力です。

1987年8月に発売したアルバム”Bad”の収録曲で、同年11月にシングルカットされました。ミュージックビデオは1988年10月ごろに、映画Moonwalkerと同時期に公開されました。

最近は、この曲の衣装を着たマイケルのビジュアルが人気漫画「鬼滅の刃」のラスボス(鬼無辻無惨)にそっくりだと話題になりました。

そんなSmooth Criminalの音楽、ダンス、映像などについて解説していきます。

奥行きのあるヴォーカル

作曲者はマイケルです。当時ハマっていたグルーブだったと自伝で語っています。

“The Way you Make Me Feel” and “Smooth Criminal” are simply the grooves I was in at time.

Moonwalk

Smooth Criminalは低い声と高いファルセット(裏声)のコントラストが強いので、奥行きがある世界が味わえます。

ヴォイストレーナーのSeth Riggsによると、マイケルの音域は3.5オクターブ以上あり、バリトンからテノールまで使いこなせるにもかかわらず、マイケルは高い音域を好んで使っていたとのことです。

それではもったいないので、Sethはもっと低くて男性らしい声を生かすよう、マイケルに強くアドバイスしたそうです。

曲中で、マイケルは主人公・アニー(I don’t knowしか言えない)・ピストル(Pow!)の3役を演じ分けています。

“Annie are you OK?”を「エニアジュウォッキ」と強い癖をつけて発音しているのも面白いです。

アニーって誰?

字面通りに歌詞を要約すると、「アパートの窓から侵入してきた謎の男(Smooth Criminal)に襲撃されたアニーへ、執拗に”Are you OK?”と聞き続けている」という不思議なシチュエーションです。

アニーとは一体誰なのでしょうか。マイケルの恋人か、友人か、家族なのでしょうか。

その答えは…

救命処置の練習用マネキンとして世界中で使われている「レサシアン」ちゃんでした。

私は医療関係者なので、今まで何度もレサシアンちゃんを運んだり並べたりして、安否確認して胸骨圧迫と人工呼吸をしていました。これがSmooth Criminalのアニーちゃんだったとは知らずに…

一般の方も車の免許をとるときなどに救命処置(胸骨圧迫と人工呼吸)の練習をする機会があると思います。その時にきっと、この子に会ってるはずです。

倒れている人を見かけて最初にすることは、近づいて「大丈夫ですか?」と聞くことです。(医療者の立場から補足すると、本当は近づく前に周りを見て、手袋などをして、自分の安全を確保するのが先です。)

講習の間は、何度も人形の肩を叩きながら「大丈夫ですか?」と聞きます。受講生たちがひたすら人形に話しかける様子は、正直シュールな感じです。この独特なやりとりが、人形をこよなく愛するマイケルの心を掴んだのでしょう。

レサシアンちゃんに「大丈夫ですか?」と話しかける場面からアイデアが派生して、まさかこんな超大作が生まれていたとはびっくりです。

ちなみにレサシアンは、パリのセーヌ川で亡くなっていた実在の少女「アン」さんのデスマスクから作られたそうです。

2020年、レサシアンは60回目の誕生日を迎えます。
「セーヌ川の少女」から生まれたレサシアンは現在、世界中で何100万人もの近代蘇生の救命テクニックを学ぶ人々、救われた人々の「生命のシンボル」となっています。

省略された歌詞

アルバムバージョンでは、2番の歌詞が一部省略されています。ミュージックビデオで完全バージョンを聞くことができます。以下の太字部分が、アルバムに収録されていない歌詞です。

So they came into the outway
It was Sunday, what a black day
Every time I tried to find him
There were no clues, they’re behind him
And they end up never knowing
Who’s the suspect or what to expect

Mouth-to-mouth resuscitation
Sounding heartbeats, intimidation

救助隊が建物にあつまった
日曜日 ひどい日だった
奴を見つけようとしたが
いつも手がかりは見つからない 尻尾をつかめない
とうとう容疑者も動機も分かず終いだった

口対口の人工呼吸をすると
心音が戻った ぞっとした

ミュージックビデオ

Smooth Criminalのミュージックビデオはとにかく完成度が高く、何度見ても感動します。マイケルだけではなく、共演者の仕草や表情、撮影セットのインテリアなどすべてが素晴らしいです。

これは当時制作されたマイケル主演のクソ映画「Moonwalker」のワンシーンです。

舞台は”Club 30’s”と名付けられた建物。中は暗くて人影はなく、ホコリとクモの巣だらけ。幽霊が潜んでいるようで、不気味な雰囲気でした。マイケルがドアを開けて入っていくと、まるでタイムスリップしたかのように明るく綺麗に蘇り、大賑わいの空間になりました。

私は以前、”Club 30’s”の間取りを予想したコラムを書いたので興味のある方は是非読んでください。

Club 30’sの構造

過去の名作からインスピレーション

このビデオを作るにあたり、マイケルは過去の名作映画を研究するようにスタッフへ指示しました。

具体的にはBob Fosseの全作品、Flashdance, All That Jazz,Band Wagon, girl hunt (Band Wagonのワンシーン)などをくまなく見るようにと書かれた直筆のメモが残っています。

この中でもフレッドアステアが主演したBand Wagonのとあるシーンは、衣装も撮影セットもSmooth Criminalそっくりです。壮大なフレッドアステアごっこをしていたのではないかと思ってしまうほどです。

Study the great and become greater.

マイケルのメモより

腕章の意味

水色のシャツと白いハット、スーツのファッションもほぼフレッドアステアの真似ですが、マイケルのオリジナル要素は右腕の”arm band”(腕章)です。この時期から、公の場やパフォーマンスで、腕章が入ったジャケットを着ることが多くなりました。

1988年のある日、マイケルが衣装係のマイケルブッシュに「一目で僕のジャケットと見分けられる工夫をして!」と急に依頼しました。マイケルブッシュはとっさに腕章を入れることを思いつき、そのアイデアをマイケルはとても気に入ったようです。

また、マイケルは腕章の意味について、「恵まれない子供たちに寄り添う意思表示」と語ったことがあるようです。(ただ、どこで発言したのか、正確なソースが見つけられませんでした)

As long as there are underprivileged children inthe world, I will continue to wear this armband.”

恵まれない子供たちが世界に存在するかぎり、僕はこの腕章を着け続ける

マイケルの言葉?出典不明だがいくつか検索に引っかかる

ダンス

この曲の振り付けは、マイケルとVincent Paterson, Jeffery Danielらが共同で制作しました。クラシックなスタイルにストリートの要素を合わせて、最強の振り付けが生まれました。

一般のナイトクラブへ偵察に行くのが難しいマイケルは、Jeffery Danielを通じてクラブで流行っている動きを取り入れました。

男性ダンサーのイメージが強い振り付けですが、女性が踊っている姿もすごくゴージャスです。とくにThis is it公演のバックダンサー、タインのダンスがめちゃくちゃかっこよくて惚れます。ただ女性が踊る時間がとても短いので、もっと女性をフィーチャーしたパフォーマンスが見たかったです。

どうやって傾いている?

フィナーレの前に、マイケルとダンサーたちは突然斜め45度に傾いて、元に戻ります。

通常では不可能で不思議な動きは世界を驚かせ、みんなが真似ようとしました。

この動きは、マイケルが大好きな映画「オズの魔法使い」から着想を得ました。ブリキのきこりがダンスするシーンで、左右の方向に傾いて戻る繰り返しの動きがあります。

マイケルは撮影セットのマジック(体を支えるワイヤー)を使い、もっと過激に傾いてみせました。

ミュージックビデオで素晴らしいイリュージョンに成功したマイケルは、「ステージで同じことをやりたい」と、衣装係のマイケル・ブッシュとデニス・トンプキンスに依頼しました。

これを可能にする靴を主に製作したのは、アイススケートの経験があるデニスでした。

外側からはマイケルが普段履いている靴と同じように見えますが、すねまで足をカバーして、靴底は床と金具で固定できるような細工がされています。

マイケルが実際に観客の前で傾いて見せたのは1988年2月23日、カンザスシティーの公演でした。マイケル・ブッシュは緊張で目も当てられなかったそうですが、マイケルは冷静に堂々とやってのけ、観客を沸かせました。

3ヶ月かかって制作されたこの装置をみてマイケルは「特許を取るべきだ」と考え、弁護士の協力を経て公式に特許を取りました。

今では失効しているようですが、公式文書を確認することができます。

Method and means for creating anti-gravity illusion

しばらくは機密文書として保管されていましたが、何年も経ったある日、スタッフのミスで特許庁への入金が滞ったためにこの文書は公開されてしまいました。

マイケルは魔法を魔法のままにしておきたかったので、情報が漏れたことを残念がっていたそうです。

ブレイク

ビデオの途中、音楽が止まり、照明が暗くなり、黒猫ちゃんがピアノの上を歩き、マイケルとダンサーたちがうなったり叫んだりするシーンがあります。

このシーンはもともと予定されていなかったそうです。マイケルはスタッフに「(このシーンで)僕たちに横槍をいれないで」と頼みました。撮影クルーにはこのシーンがいつまで続くかも知らされていませんでした。

映画Moonwalkerではミュージックビデオよりも長い”ブレイク”シーンが収録されています。

このミュージックビデオはApple Musicで購入できます。

マイケル・ジャクソンの"Smooth Criminal (Official Video)"をApple Musicで
ミュージックビデオ・1988年・時間:9:48

以下のDVDでも視聴できます。一番長いバージョンがみれるのはMOONWAKERです。MOONWALKERはブルーレイもあります。

ライブパフォーマンス

ワールドツアーやテレビ収録でもSmooth Criminalは大きな見せ場です。

イントロでは大きなスクリーンにマイケルのシルエットが映る演出、大サビの前にはダンサーと共に斜めに傾く動きでファンを盛り上げます。

Dangerousツアーでは、もともとHeartbreak Hotelという曲の開始前に使用していたミステリアスなナレーションをイントロに使っています。

My footsteps broke the silence of the pre-dawn hours,
As I drifted down Bleeker Street. Past shop windows, Barred against the perils of the night.
Up ahead, A neon sign emerged from the fog.
The letters glowed red hot.
In that way I knew so well,
Branding a message into my mind,
A single word “Hotel”

僕の足音は夜明け前の静寂を破った
ブリーカーストリートを歩いていたときだった
店の窓を横切り、夜の危険を避けていた
見上げると あるネオンサインが霧の中から現れた
文字は赤く光っていた
僕がよく知っていた手口で
頭の中にあるメッセージが焼き付けられる
一つの言葉 ”Hotel”

Bad tour, Dangerous Tour

新バージョンのショートフィルム

マイケルは幻の最終公演This is itのために、新しいバージョンの映像を作っていました。

フィルム・ノワールと総称される、往年のモノクロ映画複数とマイケルの新しい姿が合成されています。マイケルとギャングたちが銃撃戦や追いかけっこをするこの映像は、ライブでSmooth Criminalが始まる前に流れる予定でした。

This is itのブルーレイでは完全バージョンやメイキングがみられます。

残念ながらこれがマイケルが最後に出演する映像作品になってしまいました。

Immortalバージョン

世界的に有名なサーカスグループ「シルクドソレイユ」は2011年から2014年まで、マイケルをテーマにした公演を行いました。

この公演に際して“Immortal”というアルバムが発売されました。これはマイケルの名曲をショー向けにアレンジしたベストアルバムです。

“Immortal”に収録されたバージョンのSmooth Criminalは超かっこいいです。

ミュージックビデオの世界観が感じられる銃撃やガラスの割れる音、よりかっこよく強調されたベースの低音とマイケルのクリアなファルセットがとても素敵で何度も聞いてます。

おまけ:Muzan Jackson?

大人気漫画「鬼滅の刃」のラスボスがSmooth Criminalのマイケルにそっくりと言われています。

実際、コスチュームに関しては白い帽子しか共通点がないのですが、チリチリの黒髪が垂れてる感じと、中性的でミステリアスな顔立ち、美しい立ち姿と洗練された所作などもあいまって、マイケルを連想せずにはいられません。

実際にマイケルがモデルになっているのか、何か意味があって似せているのかといった公式の見解は今の所ありません。

参考文献

  1. Moonwalk(マイケルジャクソンによる自伝)
  2. Bad25  (2012年に制作されたBad制作過程のドキュメンタリー番組)
  3. King Of Style
  4. マイケルジャクソン全記録
  5. https://www.stylight.com/Magazine/Lifestyle/King-Style/(腕章についてコメントあり)
▼この記事を書いた人
あおあり

1990年生まれ。マイケルジャクソンファン歴20年ほど。
もはやマイケルが脳内に住んでいる。
マイケルの言葉を直接理解したいというモチベーションで英語を勉強し、英検1級、TOEIC960取得。
ファンの方も、ファンじゃない方も楽しんでもらえる記事を書きたいです。

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