マイケルジャクソンのKeep The Faithが心に刺さる理由

このページではマイケルの隠れた名曲”Keep The Faith”について書いていきます。

Keep The Faithは1991年に発売されたアルバムDangerousの12曲目に収録されています。

スローテンポでありながら、「自分を信じて、意志を貫け。いつかきっと上手くいく」という心強いメッセージソングです。

残念ながらシングルカットされず、ライブパフォーマンスされたり公式に映像化される機会もなく、マイケルファン以外の知名度が低いです。

しかし、聞く人の心を動かし、人生の糧になる大きなパワーを持っています。

We Are The World, Heal The World, Man In The Mirrorに負けない、マイケルジャクソンの隠れた名曲です。

作曲者はMan In The Mirrorと同じ

Keep The Faithを主に作曲したのは、グレン・バラードとサイーダ・ギャレットです。マイケルの前作Badに収録された、“Man In The Mirror”を生み出した偉大なコンビです。

壮大なゴスペルをベースに、ソウルやファンクのノリも加わった力強いメロディー、

マイケルの全身全霊を込めた歌声と、重厚なコーラスの掛け合いに圧倒されます。

マイケルとブルース・スウェーデンがプロデュースした幻想的で美しいサウンドは、まるで海中にいるような心地よさを生み出しています。

ありきたりな歌詞が心に刺さる理由3つ

歌詞の内容は「自分の信念を貫け」というシンプルなもの。

下手すると「正論だけど、ありきたりでつまらない」メッセージです。

しかし、マイケルがこの曲を歌うと、とても説得力があり、リスナーの人生を変えるレベルで感動的な作品になるのです。

どうしてこんなにもパワフルなのでしょうか? 

Keep The Faithが心に刺さる理由を3つ紹介します。

理由1:本物だから

マイケルは強い心を持ち、困難な状況の中でも自分の意志を長年貫いてきました。

だからこそ、この曲のメッセージを理解し、自分の言葉として情熱を込めて訴えられるのです。

幼くして成功したマイケルですが、その道は決して楽なものではありませんでした。

平凡な家庭に生まれ、競合相手が山ほどいて、人種のハンデもありながら芸能界を勝ち抜いてきた。

音楽の力で、人種の壁、世代の壁、国境の壁を越えてきた。

「1番になる」「売り上げを伸ばす」というプレッシャーがのし掛かる。

邪魔する人もいる。お金を騙し取ろうとする人もいる。

レコード会社の事情もある。家族との確執、かつて所属していた宗教とのしがらみもある

何もかも思い通りにいかない人生の中、諦めずに自分の表現を貫いてきた。

最高峰のエンターテイメントを世に送り出し、世界を良い方向に変えるため、絶え間ない活動を続けてきた。

そしてこれからも強く生きていくという決意。

一つ一つのフレーズが、全て本心だからこそ凄みが伝わってきます。

You can say the words like you understand
But the power’s in believing
So give yourself a chance

分かったように口をきくことはできる
でも信じる心にこそパワーは宿るんだ
だから自分にチャンスをあげよう

理由2:表現力が抜群だから

この曲で、マイケルはヴォーカリストとしての実力を遺憾無く発揮しています。

優しく繊細な歌い出しから、情熱的で力強い後半まで、変幻自在に行き来するマイケルの七色の声。

起承転結、一つの物語のようにドラマチックです。

マイケルといえば歌よりダンスの印象が強いかもしれませんが、歌唱力もずば抜けています。

彼の歌声は表現の幅が広くて、飽きないんです。

理由3:マイケル自身の弱さに打ち勝つ過程だから

この曲のレコーディングは、マイケルにとって予想外の試練になりました。

最初は、完成版より少し高いキーで録音していました。

すると、同じところで声が裏返ってしまい、うまく歌えないというハプニングが生じました。

マイケルはレコーディングの最中にスタジオから飛び出してしまいました。彼がそんなことをするのは初めてだったようです。

プロデューサーのブルースは、スタジオの隅で泣き腫らした目をしたマイケルを見つけました。

「大丈夫。キーを変えて録音しよう。」となだめて励まして、新しいキーで始めから収録しました。

すでに夜遅い時間になっていましたが、コーラスも楽器奏者もプロデューサーもみんな帰らず、早朝まで残りました。

一度は心が折れてしまったマイケルは、この歌のメッセージ通り、負けずに歌い切りました。

あまりにもパワフルな声だったので、録音された音声の一部に”Interference”(音割れ的なもの?)が入ってしまいました。

通常、レコーディングに入ってはいけない音でしたが、ブルースはマイケルの粘り強い努力を証明するため、あえて残したそうです。

つまり、一度は挫けてしまったマイケルが、仲間の力を借りて自分に打ち勝つ過程がこの曲に収録されているのです。

そんなドラマの中で生まれたからこそ、より感動的になったのかもしれません。

ちなみに、”In The Studio with MJ”というトークイベントで、最初に収録した高いキーバージョンのKeep The Faithの一部を聞くことができました。

すごく綺麗で、上から天使の声が降ってくる感じでした。多分数年前なら歌えていた音程です。これを歌いきれなかったマイケル、めちゃくちゃ悔しかったことでしょう。

あと、私の耳ではどの部分がInteferenceを起こしているのか分からないです。かなり微細なアーチファクトなのかなと思います。

Believe in yourself no matter what it’s gon’ take
You can be a winner
But you got to keep the faith

どれだけ大変でも自分を信じろ
君は勝者になれる
ただし信念を貫かなければいけない

1人の少女を救ったエピソード

この曲は、言葉の壁、時代の壁を越えて人の心を動かす力を持っています。

それ証明するエピソードを、”In The Studio with MJ”というトークイベントで聞くことができました。

このイベントは、マイケルのレコーディングに従事した音響エンジニア、ブラッド・サンドバーグさんが、マイケルに関する思い出をたくさん共有してくれるものです。

マイケルが夜通しレコーディングを続けた話のあと、「たまたまKeep The Faithを耳にして自傷行為を思いとどまった少女」のエピソードが語られました。

当時思春期で、うつ状態になっていたロシア人女の子が、ラジオで流れていたKeep The Faithを偶然耳にして、リストカットしようとしていた手を止めたそうです。

その子は英語が理解できなかったけど、皆を励まそうとするマイケルの気持ちが伝わったのです。

you can climb the highest mountain
swim the deepest sea

君はどんなに高い山だって登れるし、
どんなに深い海も泳げる

マイケルファンになったきっかけの一つ

私にとってもこの曲は凄く印象的で、初めて聞いた時の衝撃を覚えています。

「これ全然有名じゃないし初めて聞くけど、こんな良い曲あるの?なにこれ??」と、良い曲すぎて逆に退くという珍しいパターンでした。

当時中学生で、夕方に自分の部屋でCDプレイヤーで再生してました。

繊細で、優しそうで、どこか悲しそうで、キラキラした歌い出しの声に引き込まれ、

2番の美しいコーラスに心地良くなり、後半にどんどん強くなるパワーに圧倒され、

再び静かにトーンダウンするアウトロまで聞き終わったあと、心の中のモヤモヤが空に昇って散りさったようなカタルシス体験でした。

私も歌詞を理解できなかったけど、メッセージを感じることができました。

今思えば、マイケルのことを全く知らなかった私が、大ファンになるきっかけの一つだったかもしれません。

テレビカメラの前で語った思い出

マイケルが亡くなる直前、NHKBSで放送された「熱中夜話」という番組の収録に招待していただき、この曲について私がコメントする機会をいただきました。

BS熱中夜話 NHK放送史 https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009050637_00000

この番組では、一般人のマイケルファンが20人程集まり、司会のビビる大木、田丸麻紀さん、ゲストのゴリさん、吉澤ひとみさん、西寺郷太さん、ブルーツリーさん(マイケルのインパーソネーター)を中心にマイケルの歌やダンスについて語るという、一言で言えばファンにとって夢のような番組でした。

一般人と言っても、ファンの間では有名な人がたくさんいらっしゃる中で、私は幸運にも声をかけていただきました。

番組のスタイルは、自然に自由に会話している風です。しかし実際は、どのタイミングで誰が指名されて、どんな内容を話すか、ほとんど決まっていました。

マイケルの数ある名曲のなかで、この時なぜかKeep The Faithがピックアップされ、なぜか私が話す機会をいただきました。

事前のアンケートでKeep The Faithについて書いたものの、そこまで気合を入れてコメントした記憶はないので、意外な結果でした。

話す時間は一瞬で、素人なのでカメラの前でうまく話すことはできなかったけど、概ね言いたいことは言えました。

この番組が収録された後、放送日の直前にマイケルが突然亡くなりました。このショッキングなニュースの影響で、奇しくも予想より多くの人が視聴することになり、再放送もされました。

放送後、とあるファンの方から「Keep The Faithについて話してくれてありがとうございます!」とお褒めのコメントをいただきました。

本当は、この曲を選んでくれた番組のスタッフさんに感謝なのですが、私も少し良いことをした気分になりました。

そんな不思議な縁のある曲、これからも大切に聞いていきたいです。

Any road that you take will get you there
If you only try

君が選んだ道ならば辿り着けるさ
挑戦さえすれば

(おまけ)過小評価の要因を予想

最初に表記した通り、シングルカットも映像化もパフォーマンスもされず、ファン以外の知名度が皆無と言っていいこの曲。

なぜこんなにカーストが低いのか。納得いかないです。甚だしく余計なお世話ですが、不当に干されている理由を考えてみました。

レコーディング時点で完成されている

CD音源には、夜通し歌い続けたパッションあふれる音声が収録されています。ライブでこれ以上のクオリティーを再現するのは難しいかもしれません。

また、音源だけで素晴らしい作品なので、映像化する必要もないのかもしれません。

他のバラード曲に負けた

Dangerousワールドツアーのセットリストに入ったバラード曲は主に以下の通りです。

  • Human Nature
  • She’s Out Of My Life
  • Heal The World
  • Will You Be There
  • Man In The Mirror

これらの名曲を押しのけてKeep The Faithを入れられるか?

講演全体の完成度や観客の反応はどうなるか?

そう考えると、外されても仕方ないかもしれません。

そもそも、Dangerousに収録された曲数よりも、ボツ曲の方が遥かに多いのです。

数ある競合曲の中から選ばれただけラッキーとも考えられます。

参考資料

  • Man In The Music(Joseph Vogel)

▼この記事を書いた人
あおあり

1990年生まれ。マイケルジャクソンファン歴20年ほど。
もはやマイケルが脳内に住んでいる。
マイケルの言葉を直接理解したいというモチベーションで英語を勉強し、英検1級、TOEIC960取得。
ファンの方も、ファンじゃない方も楽しんでもらえる記事を書きたいです。

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